「また帰りたい…」デイサービス職員が抱える、認知症利用者の「帰宅願望」問題解決ガイド
「また帰りたい…」デイサービス職員が抱える、認知症利用者の「帰宅願望」問題解決ガイド
この記事では、デイサービスの現場で働くあなたが直面する、認知症の利用者さんの「帰宅願望」という、非常にデリケートな問題に焦点を当てます。具体的な事例を通して、その背景にある感情を理解し、どのように対応すれば、利用者さんとあなた自身の両方が安心して過ごせるのか、具体的な解決策を提示します。
若年性アルツハイマーの利用者さんの帰宅念慮についてお尋ねします。当方デイサービスの職員をしております。利用者は６６歳女性で要介護４の方です。一年前より急速に症状が進んでおられます。デイサービスには、機嫌よくおいでになるのですが、職員に朝からずっと５分毎に、「主人はどこ？家にかえらないと！」とおっしゃり、ひどい時は、職員に声を荒げて、帰ろうとなさるのです。体操をしたり、食事の最中などは大丈夫なのですが、それ以外のとき全部という感じです。最初のころは、「私もうなんだかわからないのよ」と話されて、不安になると、トイレに行きたいとおっしゃり、一日に何度もトイレに行かれるという感じでした。もともと明るいかただったようで、以前見られた笑顔が最近は、困ったような表情が目立つようになりました。デイではなるべく安心していただけるよう、職員が必ずそばにいてお話をうかがうようにしています。しかし、デイの利用時間が長めのため、どうしたら時間いっぱいすごしていただけるのか、悩んでいます。今の状態は、ご自分のお名前は憶えていらっしゃいますが、何かお話していても５分経つと忘れてしまわれるという感じで、最近は服の着替え等の手順が難しく、食べ物かどうかがわからなくなっておられ、（お箸置きを食べようとなさります）トイレに入っても使い方がわからないようで、便器で手を洗おうとされたりします。職員には、同じ内容のことを５分置きにずっと話されています。補足として、アドバイスありがとうございます。ほんとにありがたいです。どうしたいのか・・・自分でも考えていませんでした。ただ、安心して過ごしていただきたいという思いだけでいっぱいいっぱいというか、、。当方のデイでは（時間が長いのと入浴介助が一人でほぼ一日通しなのできつい等あるとおもうのですが）次々に職員がやめてしまい、ベテランの職員がいなくて、２年目の自分がリーダーになっています。こんな状態ではだめだと思いますが、自分が未熟でよくわからないので教えていただけたらうれしいです。大事なのは信頼ですね。
1. 帰宅願望の背景にある感情を理解する
認知症の利用者が「家に帰りたい」と訴える背景には、様々な感情が複雑に絡み合っています。それは、不安、孤独感、混乱、そして過去の記憶への郷愁などです。特に、若年性アルツハイマー病の場合、進行が早く、心身ともに大きな変化を経験するため、その感情もより強く現れることがあります。
- 不安： 現在の状況に対する不安、自分が置かれている場所がわからない不安、そして将来への不安。
- 孤独感： 周囲とのコミュニケーションがうまくいかないことによる孤独感、家族や親しい人との距離を感じること。
- 混乱： 時間や場所、人に対する認識の混乱。記憶障害により、現在いる場所が安全な場所であると理解できない。
- 過去の記憶への郷愁： 昔の家や家族との思い出への憧れ。過去の安心できる場所に帰りたいという願望。
今回のケースでは、利用者の女性は、ご主人のことを心配し、「家に帰らないと」と繰り返し訴えています。これは、ご主人への愛情と、ご自身の置かれた状況に対する不安が混ざり合った結果と考えられます。また、以前の笑顔が減り、困ったような表情が増えたことからも、精神的な負担が大きいことが伺えます。
2. 具体的な対応策：安心できる環境づくり
利用者の「帰宅願望」に対応するためには、まず、安心できる環境を整えることが重要です。具体的には、以下の点を心がけましょう。
2-1. コミュニケーションの工夫
コミュニケーションは、利用者との信頼関係を築き、安心感を与えるための重要な手段です。
- 傾聴： 利用者の言葉に耳を傾け、感情を理解しようと努めましょう。話の内容だけでなく、言葉の裏にある感情を汲み取ることが大切です。「つらいですね」「寂しいですね」など、共感の言葉を添えることで、利用者は安心感を得られます。
- 肯定的な言葉： 否定的な言葉は避け、肯定的な言葉で接しましょう。「家に帰れません」ではなく、「今日も一緒に楽しい時間を過ごしましょうね」といった言葉がけを心がけましょう。
- 具体的な説明： 現在の状況を具体的に説明することも有効です。「今はデイサービスで、体操の時間ですよ」「ご主人は、〇〇さんのことを心配して、ここでゆっくり休んでほしいと思っていますよ」など、分かりやすい言葉で説明しましょう。
- 非言語的コミュニケーション： 笑顔、アイコンタクト、触れ合い（優しく手を握るなど）も、安心感を与えるために有効です。ただし、相手の状況や性格に合わせて、適切な方法を選びましょう。
2-2. 環境調整
環境を整えることも、帰宅願望を軽減するために重要です。
- 見慣れたもの： 以前住んでいた家の写真や、馴染みのある物を飾ることで、安心感を与えることができます。
- 時計とカレンダー： 時間や日付を意識できるように、大きな時計やカレンダーを設置しましょう。
- 安全な空間： 転倒の危険があるものを取り除き、安全に過ごせる空間を作りましょう。
- 静かな場所： 騒がしい場所は、混乱を招く可能性があります。落ち着いて過ごせる静かな場所を用意しましょう。
2-3. 活動の工夫
帰宅願望が強くなる時間帯を把握し、その時間帯に、気を紛らわせるような活動を取り入れることも有効です。
- 回想法： 昔の写真を見たり、思い出話を聞いたりすることで、過去の記憶を呼び起こし、安心感を得ることができます。
- 音楽療法： 好きな音楽を聴いたり、一緒に歌ったりすることで、気分転換になります。
- レクリエーション： 簡単なゲームや手作業など、楽しめる活動を取り入れましょう。ただし、難しすぎない、達成感を得られるような内容を選びましょう。
- 身体活動： 体操や散歩など、適度な運動は、心身のリフレッシュに繋がります。
3. 職員間の連携と情報共有
認知症ケアは、一人で行うものではありません。職員間の連携と情報共有が、質の高いケアを提供するために不可欠です。
- 情報共有： 利用者の状態や、対応方法について、職員間で情報を共有しましょう。申し送りノートや、定例のカンファレンスなどを活用しましょう。
- 役割分担： 職員それぞれが得意なこと、できることを活かして、役割分担を行いましょう。
- チームワーク： 困ったことがあれば、一人で抱え込まずに、他の職員に相談しましょう。
- 記録： 利用者の言動や、対応した内容を記録することで、状態の変化を把握し、より適切なケアに繋げることができます。
4. 家族との連携
家族との連携も、認知症ケアにおいて非常に重要です。家族は、利用者の生活背景や、過去の情報をよく知っています。また、家族の協力は、利用者の安心感を高めることにも繋がります。
- 情報共有： 利用者のデイサービスでの様子や、対応方法について、家族と情報を共有しましょう。
- 相談： 困ったことや、分からないことがあれば、家族に相談しましょう。
- 協力： 家族にも、自宅での対応について、アドバイスを求めましょう。
- 感謝： 家族の協力に対して、感謝の気持ちを伝えましょう。
5. 職員のメンタルヘルスケア
認知症ケアは、精神的にも負担の大きい仕事です。職員自身のメンタルヘルスケアも、質の高いケアを提供するために重要です。
- 休息： 十分な休息を取り、心身の疲れを癒しましょう。
- 気分転換： 趣味を楽しんだり、友人との時間を過ごしたりして、気分転換を図りましょう。
- 相談： 困ったことや、辛いことがあれば、同僚や上司、専門家に相談しましょう。
- 自己肯定： 自分の仕事に誇りを持ち、自己肯定感を高めましょう。
今回のケースでは、2年目の職員がリーダーを務めているとのこと。未熟さを感じ、不安に思われるかもしれませんが、それは当然のことです。まずは、周りの職員と連携し、情報共有を密にすることから始めましょう。そして、積極的に研修に参加したり、先輩職員に相談したりして、知識やスキルを向上させていくことが大切です。また、一人で抱え込まずに、困ったことは周りに相談し、チームで問題を解決していく姿勢が重要です。
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6. 成功事例から学ぶ
実際に、帰宅願望の強い利用者に対して、効果的なケアを提供しているデイサービスの事例を見てみましょう。
事例1：回想法の活用
あるデイサービスでは、毎日、回想法の時間を取り入れています。利用者の過去の写真や、思い出の品を展示し、それらを見ながら、昔話に花を咲かせます。ある女性利用者は、若い頃の写真を見ながら、「あの頃は楽しかったわね」と笑顔を見せるようになりました。回想法を通して、過去の肯定的な記憶を呼び起こすことで、不安感が軽減され、帰宅願望も落ち着いてきたそうです。
事例2：個別プログラムの導入
別のデイサービスでは、個々の利用者の状態に合わせた個別プログラムを導入しています。例えば、ある男性利用者は、若い頃に庭師をしていた経験があり、庭の手入れに強い興味を持っていました。そこで、デイサービスの庭で、一緒に花を植えたり、草むしりをしたりする時間を設けました。その男性利用者は、庭仕事に集中することで、帰宅願望を忘れ、生きがいを感じるようになったそうです。
事例3：家族との連携強化
あるデイサービスでは、家族との連携を強化し、自宅での過ごし方についてもアドバイスを行っています。例えば、自宅でも、デイサービスで使用している写真や、音楽を流すことで、安心感を与え、帰宅願望を軽減する工夫をしています。また、家族が、デイサービスに一緒に参加するイベントなども開催し、家族間の絆を深めることで、利用者の精神的な安定に繋がっています。
7. 専門家の視点
認知症ケアの専門家は、帰宅願望に対して、以下のようにアドバイスしています。
- 早期発見・早期対応： 帰宅願望の兆候に早期に気づき、適切な対応をすることが重要です。
- 多職種連携： 医師、看護師、介護士、家族など、多職種が連携し、チームでケアを提供することが大切です。
- 個別ケア： 利用者一人ひとりの状態に合わせた、個別ケアを提供することが重要です。
- 環境整備： 利用者が安心して過ごせるような、環境を整えることが大切です。
- 情報収集： 最新の認知症ケアに関する情報を収集し、知識やスキルをアップデートすることが重要です。
8. まとめ：あなたができること
認知症の利用者の「帰宅願望」に対応するためには、まず、利用者の感情を理解し、安心できる環境を整えることが重要です。コミュニケーションを工夫し、環境を調整し、活動を取り入れることで、帰宅願望を軽減することができます。また、職員間の連携、情報共有、家族との連携も不可欠です。そして、あなた自身が、メンタルヘルスケアを行い、心身ともに健康な状態で、質の高いケアを提供することが大切です。
今回のケースでは、あなたが2年目のリーダーとして、多くの課題を抱えていることと思います。しかし、諦めずに、周りの職員と協力し、情報収集をしながら、一つ一つ問題を解決していくことで、必ず成長できます。そして、あなたの努力は、利用者さんの笑顔に繋がり、あなた自身のやりがいにも繋がるはずです。焦らず、一歩ずつ、前に進んでいきましょう。
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